今日のお奨め

オーガニックでここまでできる!「シーズンズ」の庭づくり12ヶ月

オーガニックでここまでできる!「シーズンズ」の庭づくり12ヶ月


シーズンズのデザイナーであるポールスミザーさんのお言葉

この本で紹介する宝塚ガーデンフィールズの英国風ナチュラル庭園「シーズンズ」は、兵庫県宝塚市の街の中心にある。遊園地だった宝塚ファミリーランドが閉園した跡に、2003年につくられた。設計するにあたり、残せる高木をできるだけ残し、通常は廃棄処分される遊園地の瓦礫を生かすことにした。今では周りに高層マンションが建ち並ぶが、一歩庭の中に足を踏み入れると、緑があふれ、静けさの中で、虫の羽音や鳥のさえずりが楽しげに聞こえてくる。この庭では、いろいろな種類の生き物たちに出会うことができる。キアゲハの幼虫が、堂々とセリ科の植物を食べている。カワセミやアオサギが、魚をとりに飛び出してくる。珍しいトンボが、池で産卵する姿も見られる。ここは植物の種類が豊富で、いつも違う花が咲き、実を結び、季節とともに景色がどんどん変わっていく。植物の手入れには化学農薬や化学肥料を使っていないので、それぞれ居心地のいい場所を見つけた生き物たちが、活き活きと暮らし、次の世代を育んでいる。

 この本には、単なる庭園の紹介だけではなく、読者の方々が家で実践できる、オーガニックな庭づくりのヒントが詰まっている。近年地球温暖化ばかりがクローズアップされているけれど、私は生き物の種類が急速な勢いで減っていることがとても問題だと考えている。いろいろな生き物と共生するには、植物の種類を増やすことが必須条件だ。水辺や石垣など、自然な素材で隠れ家になるものがあることも大切だ。地球温暖化を防止しようと言われても、どうすればよいか実感が湧かないが、自分の庭やベランダにいろいろな植物を植えることなら、すぐに誰でも実行できる。ベランダの小さなコンテナでも、虫たちは目ざとく見つけてやってくる。種を残せば、鳥たちも食べにくる。庭があてにされ、自分の植えたわずかな植物が、こうして生き物たちの命を支えていることを実感できる。

 こども達に自然のことを教えるのにも、庭は一番身近な教室だ。植物を触ったり、虫のことを調べたり、いろいろな体験ができる。小さい頃の体験は、大人になってから物事を判断し、選択するための基礎になる。植物好きの両親に育てられた私の妹は、小さいうちは植物にまったく興味がなかったけれど、子育てをするようになった今では、家庭菜園で無農薬の野菜を育てて近所の人と交流し、こども達の遊ぶ花の庭をつくることに夢中だ。ガーデンデザイナーになった私の基礎も、もちろん小さい頃に遊んだ庭や森にある。だから、今は植物が好きでない人が、ちょっとでもおもしろいと思ってもらえる庭がいい。生き物を相手にしていると、そこにある自然や環境を守りたい気持ちが強くなる。

 「シーズンズ」には、日向、日陰、乾燥した所、湿った所、池、壁面、屋上などの様々な場所で、いろいろなテーマのガーデンが用意されている。どんな場所でどんな植物が、無理をせずにのびのびと暮らしているか、四季折々の姿を見て、気に入る植物があれば、ぜひ自分の庭に取り入れてほしい。年中、花がにぎやかに咲くように植え替えられている一年草ばかりでは、不自然で窮屈だ。むしろ葉の多様な美しさに惹かれる。森に入ってみれば、ほとんどの葉は虫に食べられた跡があるものだ。だからといって慌てて消毒する必要はなく、森はそのままで十分美しい生命力に満ちている。庭となると虫食いの葉が一枚でも許せないのはおかしい。完璧でなくてもよい、その方がもっと楽しいと思うと、気持ちが楽になる。気楽に植物とつきあおうよ、と伝えたい。

 「シーズンズ」は、私のこの考え方を基に、庭で働くみんなと一緒に作りあげてきた、パブリックガーデンだ。オーガニックでも、ここまでできる。この本と「シーズンズ」を通じて、それぞれが環境を考える、生き方そのものを考えるきっかになればと、心より願っている。

ポール・スミザー


http://books.hankyu-com.co.jp/_ISBNfolder/ISBN_10200/10205_organic/organic.html